室内人類学

犬歯の短小化が起きていない=人類ではない

2020-01-01から1年間の記事一覧

ウイルスの種まき

直近三作について、いろいろお話してしまう。 「パンスペルミアのペンギンが見えるか」 最初の仮題は眼石病でした。 当初はアイズトゥアイズで同じ病の人間が出会い、引力で惹かれあうと傍で人が死ぬ話でした。がんせきって読めるなってところから発想が広が…

穴を埋める女

meeさんのお誕生日のお祝いに書かせていただきました。お祝いかこれが。 * ここはゴミ箱なんだね。とあなたが言った。 庭に大きな穴をくつろげて、私はそこにいらない原稿用紙をばら撒いた。そうかもしれない。そんな気がしてきた。 私が穴に落としたのは夢…

恋とはどんなものかしら

小型バスは山道をゆっくりと走っていた。「博愛観光」と記されたそのスリムな車体はくねくねと曲がるカーブを順調にこなし、温泉街に向かって進んでいく。満員の車内ではぴったり同じ数の男女が飲食をしながら談笑し、親睦を深めていた。二十四名の乗客、彼…

パンスペルミアのペンギンが見えるか

━━る、か。 ━━み、え━━る、か。 ━━あの真昼の星、一等輝く空の光が見えるかい。君を探す一番星。一人は怖いと泣いている。君たちの出会いを祝福したい。 どうか受け取ってほしい、新しい人。新しい命。どうか、きっと気に入ってほしい。人よ、言の葉を見るが…

シュレディンガーの斎藤くん

「紫陽花って好き」 嘘にもならない嘘を吐いた。もう、十年以上前になる。中学時代の写生だったか地域のレポートだったか、校外学習で近所のお寺に訪れた時のことだ。 班長の斉藤くんがじっと紫陽花を見つめていたものだから、話すきっかけ程度に口にしたも…

満月紀行

空はもうもうとした煙のような雲に覆われ、湿気を帯びた風はもうすぐ雨が降りそうだと予告する。濃紺に灰を垂らした空には、脅かされない絶対さを伴って丸い月が大仰に座り込んでいた。 この地域、コート一枚では随分冷える。もし俺が風邪など引いてかえれば…